蒸しパンがすっごくおいしかったもんだからもうちょっとでほんとに忘れちゃいそうになったけど、横見たら焼いたクレイイールがあったおかげで僕は蒸さなきゃって思い出したんだ。
「ノートンさん。蒸しパンは後にして。焼いたお魚、蒸さなきゃ」
「おっ、そうだったな。この蒸し器ってのに入れればいいのか?」
「そうだけど、その前にお水足してね。パンを蒸したから、その分減っちゃってると思うからね」
そうお願いするとね、ノートンさんは網の上からじょぼじょぼお水を入れて、そのお水があった待って湯気が出てくるのを待ってから焼いたクレイイールを中に入れてったんだ。
「それで、どれくらい蒸せばいいんだ?」
「う〜ん、どれくらいだろう? 始めてやるから解んないや」
蒸さなきゃダメって事は知ってるけど、どれくらい蒸すのかなんて知らないでしょ?
だからそう答えると、それを聞いたノートンさんが、それなら軽く蒸したのとしっかりと蒸したの、2回に分けて取り出そうか? って言うんだよね。
「焼いた事で火は入ってるんだから、後はどれくらい柔らかくなったらいいかってだけみたいだからな」
「そうだね。それにさ、もしかしたらちょびっとだけ柔らかいのとすっごく柔らかいの、そのどっちもがおいしいかもしれないもんね」
このクレイイール、焼いただけでおいしくなったって事は、前の世界のウナギとは違うものかもしれないでしょ?
だったらさ、柔らかくってふわふわの方が絶対においしいかなんて解んないもん。
だからいろんな硬さのを食べて、どれが美味しいのかを調べる事にしたんだ。
そしたらね、
「これは何と言うか……甲乙つけがたい味だな。少ししか蒸していないものは柔らかさこそ少ないが、味はこっちの方が濃い気がする」
「うん。でもこっちのすっごく蒸した方はとってもふわふわで、それにお口に入れると、とろって溶けちゃうよ」
食感と味が違ってるけど、どっちも本当に美味しくなってたもんだから、僕とノートンさんはホントにびっくりしたんだ。
「これは味付け次第で、本当に化けるぞ。特にこの長時間蒸した方。これはちょっと濃いめのソースをかけたオムレツに向いてるんじゃないか?」
「卵のふわふわでトロトロだもん。入れたらきっとおいしいと思うよ」
そういえば前の世界のウナギも、卵焼きってのに入れたお料理があったっけ。
って事はさ、このクレイイールだって卵と一緒に食べたら絶対おいしいはずなんだ。
「それとこの少し蒸した方。これは脂の甘みが強いから、トマトと合うんじゃないか?」
「うん。僕ね、これにお塩を振ってからもう一回焼いて、それにトマトとチーズをのっけてオーブンで焼いてもらおうって思ってたんだよ」
実はこれ、前の世界で見てたオヒルナンデスヨでウナギ特集ってのでやってたお料理なんだ。
ホントはお醤油とお砂糖で作ったたれで食べたいなぁって思うけど、まだお醤油、作ってないでしょ?
だから他になんかなかったかなぁって思ってて、さっき、あっ、そうだ! って思い出したお料理なんだ。
「なるほど。確かにこの淡白な味には強めなチーズが合いそうだな」
「でしょ?」
僕のお話を聞いたノートンさんも、僕が言ったチーズとトマトのお料理はおいしそうって言ったんだ。
でもね、その後すぐにもういっぺん焼くの? って不思議そうなお顔で聞いてきたんだよね。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「ああ、聞いてないな」
そういえば僕が焼いたクレイイールを蒸すんだよって言ったら、その後をお話する前に蒸すって何? って聞いてきたっけ。
その後はそのまんま蒸し料理のお話になっちゃったから、確かに言ってなかったかも?
「あのね、蒸すとふわふわになっちゃうけど、せっかく表面がカリカリだったのにやわやわになっちゃうでしょ? だから蒸した後の焼いて、もういっぺんカリカリにしようって思ったんだ」
「なるほど。確かに表面だけ炭火であぶれば、さらに美味くなるかもしれないな」
ふわふわのオムレツに入れるんだったらこのお魚もふわふわの方がおいしそうだよね?
でも、チーズとトマトをのっけるんだったらちょっとカリカリになってた方がおいしそうでしょ?
それにさ、前の世界のウナギも中はふわふわだけど表面はたれを付けて焼いてたからちょっとカリっとした食感だったんだよね。
だから絶対、もういっぺん焼いた方が美味しいって僕、思うんだ。
と言う訳で今度は蒸したクレイイールをもういっぺん焼く事に。
「どうせならこのふわふわの方も焼いてみるか」
その時にね、ノートンさんがこんな風に言ったもんだから、蒸したやつはみんなお塩を振って焼く事にしたんだ。
「一度焼いたからかなり脂が落ちていると思ってたけど、蒸した物を改めて焼くと、まだまだ脂がある事が解るな」
そしたらね、ちょっと硬めなのもふわふわなのも炭の上で焼いたら中から脂が出てきて、すっごくジュウジュウいってるんだ。
でね、焼きあがったのを見てみると、なんとふわふわだった方まで表面がカリカリになっててびっくり。
「これはもしかすると、柔らかい方も焼いた方が美味いのかもしれないぞ?」
そんなカリカリになったクレイイールを見たノートンさんはちょっと硬めだったのとふわふわだったの、その両方を串から抜いてお皿にのっけたんだ。
でね、どっからかおっきなチーズを出して来て、その表面を炭火であぶると、柔らかくなったチーズをそのクレイイールにどばぁってかけたんだよ。
「今からトマトソースを作る訳にもいかないからな。とりあえず今はチーズだけだ」
「でも、チーズをかけただけのでも、とってもおいしそうだよ」
ノートンさんはそのチーズの上から乾燥させてバラバラにしたバジルの葉っぱとお塩、それにノートンさんが食べる方にだけ黒い粒々をぱっぱってかけたんだ。
「ノートンさん、その黒いの何?」
「ああ、これは黒コショウだ。ちょっと辛いからルディーン君の分には書けなかったんだが……かけるか?」
「辛いの? じゃあいらない」
お父さんやお母さんはたまに辛いのをお料理にかけて食べてるけど、前にそれをちょびっとだけもらって食べたらひぃーってなっちゃったもん。
だから僕、それからは辛いものなんて絶対食べないぞ! って決めてるんだ。
「さて、それじゃあ試食だ」
という訳で、僕のは黒コショウ無しで食べてみる事にしたんだけど。
「ん!?」
どうなってるかなぁって気になってたふわふわの方を食べてみると、僕が思ってたのよりず〜っと、ほんとにず〜っとおいしかったもんだからすっごくびっくりしちゃった。
でね、それはどうやらノートンさんも一緒だったみたい。
「料理によって蒸し時間を使い分ける方がいいなんて考えていたが、こうして食べ比べてみると間違いだったいうのが解るな」
「うん。このふわふわな方、焼くとサクッとしてふわっとして、モグモグしたらおいしい脂がじゅわぁだもん」
「逆に蒸しが足らない方は、こちらに比べて味がしつこく感じる。これは多分、水分が抜けて香ばしさが加わったせいだろうな」
ノートンさん、あんまり蒸してない方は味が濃いって言ってたでしょ?
蒸しただけの時は中に入ってたお水のおかげでおいしく感じてたんだけど、焼いてそれが抜けたもんだからもっと濃くなっちゃったもんだからおいしくなくなっちゃったんだって。
「どちらにしても一つ解った事は、このクレイイールは一度焼いて脂を落とした後にしっかりと蒸し、それをさらに焼く事で極上の魚料理になるという事だな」
焼いただけでも美味しくなったなぁって思ってたクレイイールだけど、これもやっぱり前の世界のウナギとおんなじお料理のやり方の方がおいしくなるんだね。
って事はさ、お醤油とお砂糖で作ったたれで焼いたら、どんだけおいしくなるんだろう?
お家に帰ったら、絶対にお醤油、作んなきゃね。
僕はお塩だけでもとってもおいしくなったクレイイールをモグモグ食べながら、ふんすと気合を入れたんだ。
クレイイール、ノートンさんが極上の味と太鼓判を押すほどの魚料理になってしまいました。
獲りやすい上に泥臭くてまずいと、とても安く売られていたクレイイールですが、この料理法が広まったらどうなってしまうのでしょう?
とりあえず屋台で売っていたおじさんには、ちゃんとこの料理法を教えてあげないといけませんね。
クレイイールの値段が高騰して失業なんて事になってしまったらかわいそうですからw